5Gを語るうえで欠かせないキーワードの一つが Massive MIMO(マッシブ・マイモ) です。
膨大なデータ通信と同時接続を支えるこの技術は、まさに次世代ネットワークの背骨。
従来のMIMOが数本の腕で器用にデータを扱う存在だとすれば、Massive MIMOは無数の腕を持つ巨人のように膨大なユーザを支えます。
本記事では、その基本から応用、そして課題まで、通信エンジニアの視点で整理していきます。
MIMOとMassive MIMOの違いは?

画像出典:ソフトバンク公式サイト
MIMOとは?
MIMO(Multiple Input Multiple Output)は、送受信に複数のアンテナを使い、空間多重によって伝送容量を高める技術です。
4G LTEでもおなじみの技術で、2×2や4×4といったアンテナ構成が主流でした。
Massive MIMOとは?
Massive MIMOは、このMIMOをさらに拡張し、数十から数百本のアンテナをアレイとして配置する手法です。
これにより、同時多接続・高スループット・干渉低減といった次世代通信に不可欠な性能を実現します。
なぜ5Gに必要なのか
5Gでは「多数同時接続」「超高速通信」「低遅延」という三つの要件が求められます。
Massive MIMOはこのうち特に以下に大きく寄与します。
- 同時接続数の拡大:多ユーザに個別のビームを形成
- スループットの向上:空間多重により周波数を効率活用
- 干渉低減:ビームフォーミングによる指向性制御
まるで都市の喧騒の中で、特定の声だけを拾い上げるような精密さで通信を成立させるのです。
アンテナアレイとビームフォーミング
Massive MIMOの象徴がアンテナアレイ。
直線的に、あるいは平面上に配置された数十〜数百本のアンテナが一体となり、電波を「ビーム」として特定方向へ集中させます。
- ビームフォーミング:ユーザごとに専用のビームを形成
- セル分割の高度化:電波を空間的に切り分け、リソースを最大限に活用
これにより、同じ周波数リソースでも複数ユーザが同時に利用可能となり、限られた帯域幅の“生産性”が飛躍的に向上します。
導入事例
都市部のマクロセル
高層ビルが立ち並ぶ都市では、ユーザ密度が高く干渉も多発します。
Massive MIMOはビームを狙い撃ちすることで、効率的な通信を確保します。
屋外スタジアムやイベント会場
一箇所に数万人が集中する環境でも、Massive MIMOは多数のビームを同時形成することで接続品質を維持します。
技術的な課題は?
輝かしい技術にも当然課題はあります。
チャネル推定の難しさ:多数のアンテナに対し正確なCSI(チャネル状態情報)が必要
端末との整合性:モバイル端末が必ずしも多アンテナに対応していない
ハードウェア実装の複雑性:膨大なRF回路、演算処理、消費電力の増大
これらをどう克服するかが、今後のネットワーク進化のカギを握ります。
まとめ
Massive MIMOは、5Gを支える多腕の巨人ともいえる存在です。
従来のMIMOを凌駕するアンテナ数と精密なビーム制御で、都市やイベントといった膨大な通信需要を支えています。
一方で、チャネル推定やハードウェアの負荷といった課題も抱えており、研究開発は今なお進化の途上です。
それでも、次世代の無線ネットワークを語る上でMassive MIMOを抜きにすることはできません。
未来のネットワークは、無数のアンテナが織りなす電波の舞台で形作られていくのです。
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