携帯電話の基地局が日々大量の通信をさばけるのは、目に見えないところで動く精密な仕組みのおかげです。
その中で、基地局の「頭脳」であるBBU(Baseband Unit)と「手足」であるRRH(Remote Radio Head)を結ぶ静かな架け橋
それがCPRI(Common Public Radio Interface)です。
一見地味に見えるこの規格は、実は4G以降のモバイルネットワークの進化を陰で支えてきました。
ここでは、CPRIがなぜ必要とされたのか、どのような役割を果たしているのかを整理してみましょう。
CPRIの概要と生まれた背景
かつての基地局は、無線処理部と信号処理部が一体となったモノリシックな構成でした。
しかし通信需要が爆発的に増加した4G LTEの時代、柔軟性と効率化を求めて、基地局は「BBU(信号処理)」と「RRH(無線部)」に分離されました。
このとき登場したのが、両者を結ぶ共通インターフェースとしてのCPRIです。
複数メーカーの機器を接続できるよう標準化され、基地局設計の自由度と拡張性を大きく広げました。
技術的な特徴
伝送方式
CPRIは、BBUで生成されたベースバンド信号(IQ信号)をシリアルデータとして光ファイバに載せ、RRHへ送り出します。
その逆も然りで、受信信号はRRHからBBUへ戻されます。
レイヤ構造
物理層から制御層までのレイヤを持ち、単なる信号伝送だけでなく、装置間の制御信号や同期情報もやりとりできる点が特徴です。
タイミング同期
モバイル通信の世界では、時間のズレが致命的な干渉を招きます。
CPRIはクロック同期を精密に伝送できる仕組みを持ち、セル間同期を高精度で実現します。
なぜBBU/RRH分離が必要だったのか
BBUを局舎に集約し、RRHだけをアンテナ直下に置くことで、以下のようなメリットが得られました。
- 長い同軸ケーブルによる損失を解消
- 高所作業を最小限にし、保守を効率化
- BBUを集中配置することでリソースを柔軟に活用
これらを成立させるための要となったのがCPRIです。いわば、BBUとRRHを一体として動かすための“見えない生命線”だったのです。
CPRIのメリットと課題
メリット
- マルチベンダー環境での相互接続を可能に
- 高精度な同期伝送でLTE/5Gの要求を満たす
- 柔軟なBBU集約を支援し、C-RANの実現を後押し
課題
- 帯域効率の低さ:IQ信号をそのまま送るため、膨大な帯域を消費
- 伝送距離の制限:フロントホールに大容量・低遅延の光回線が必須
- スケーラビリティ:5Gの超大容量化には非効率
実際の活用シーン
CPRIは4G LTEの時代に広く採用され、屋外マクロセルから都市部の密集エリアまで、幅広い現場で使われてきました。
多くの通信エンジニアがフィールドで扱い、そのトレース波形を見ながら光リンクやBBUとの接続状態を確認してきた経験があるはずです。
その先へ:eCPRIとO-RAN
5Gの超大容量・低遅延の要件に対応するため、CPRIの後継としてeCPRIが登場しました。
Ethernetベースの汎用インフラを活用できるため、拡張性や帯域効率が大幅に向上しています。
さらに、O-RANの潮流の中で、フロントホールのオープン化・標準化が進み、基地局アーキテクチャは新たなステージへと進化しています。
まとめ
CPRIは、基地局の分離アーキテクチャを支える見えない生命線でした。
その存在があったからこそ、BBUとRRHを遠隔に配置し、効率的で柔軟なRAN構築が可能になったのです。
今後はeCPRIやO-RANといった新しい仕組みに移り変わっていきますが、通信インフラの歴史を語るうえで、CPRIの果たした役割は決して色あせることはありません。
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