大規模ビル、商業施設、地下街、駅構内、空港、スタジアム。
こうした屋内空間で通信品質を安定させるのは、屋外と同じ発想だけでは通用しない場面が多くあります。
コンクリートや金属、ガラスによる減衰、フロアごとの遮蔽、利用者密度の偏り。
電波は目に見えませんが、建物の構造や人の動きに驚くほど正直に影響を受けます。
そこで活躍するのがDASです。
DASはDistributed Antenna Systemの略で、日本語では分散アンテナシステムと呼ばれます。
ひとつの信号源から、複数のアンテナへ信号を分配し、屋内全体に電波を行き渡らせるための仕組みです。
単にアンテナを増やす話ではありません。屋内という閉じた空間の電波を設計し、使える品質として成立させるためのインフラです。
DASの概要と屋内で求められる理由
屋内は電波にとって厳しい環境です。屋外基地局の電波は、建物に入った瞬間から壁や窓で削られていきます。
奥へ進むほど信号は弱まり、フロア構造や通路の形によってムラが生まれます。
さらに人が集まる場所では端末数が増え、同じ電波を共有することで速度低下も起きやすくなります。
DASは、この問題を屋内側から解きにいきます。
建物の中にアンテナを分散配置し、必要な場所へ、必要な強さの電波を届ける。
圏外や不安定なスポットを減らし、エリアを細かく分けることで混雑にも強くする。
屋内で当たり前につながる体験は、こうした地道な設計の積み重ねの上に成り立っています。
DASの基本構成

画像出典:NYBSYS公式サイト
DASは大きく、信号源、ヘッドエンド、伝送路、リモートユニット、アンテナで構成されます。
施設の規模や用途、収容すべき周波数帯、想定トラフィックによって構成は変わりますが、考え方はシンプルです。
ひとつの場所で生み出した信号を、建物内の複数地点へ配り、そこで放射する。
そのための分配と伝送の仕組みがDASです。
信号源
信号源は携帯キャリアの基地局装置や屋内向けの中継設備、場合によっては小型セル装置などです。
ここから出たRF信号をDASに入力し、建物内へ配ります。
マルチキャリア対応の場合は、複数事業者の信号をひとつにまとめて扱う構成になります。
ヘッドエンド装置
ヘッドエンドは信号を集約し、必要に応じて増幅やフィルタリング、周波数帯の整形を行い、DAS網へ送り出す中枢です。
設計次第では監視や障害検知の役割も担い、運用の起点となります。
目立たない場所で、全体を静かに支える存在です。
伝送路
DASの伝送路は同軸ケーブルか光ファイバが中心です。
同軸は構成が単純で取り回しやすい反面、距離が伸びるほど損失が積み上がります。
光ファイバは長距離でも損失が小さく、広い施設で力を発揮しますが、光変換やリモート側の機器構成が必要になります。
施設規模と求める品質に応じた選定が重要です。
リモートユニットとアンテナ
リモートユニットは各エリアに近い場所へ設置され、信号を再増幅したり、必要に応じて変換を行ってアンテナへ供給します。
アンテナは天井裏や壁面、通路、フロア中心などに分散して配置されます。
利用者の視界に入らず、空間に溶け込む形で電波環境を整えられる点も、屋内DASならではの強みです。
パッシブDASとアクティブDAS
DASは方式として大きくパッシブとアクティブに分かれます。
優劣の話ではなく、規模や用途によって適材適所があります。
パッシブDAS
パッシブDASは、分配器やカプラなどの受動素子と同軸ケーブルで信号を配る方式です。
構成がシンプルでコストを抑えやすく、比較的規模の小さなビルや限定エリアで採用されます。
一方で、損失が積み重なるため、広い施設では設計の難易度が上がります。
アクティブDAS
アクティブDASは、途中で増幅や変換を行いながら信号を届ける方式です。
光ファイバ伝送を用いる構成が多く、長距離配線や多階層の施設でも品質を保ちやすいのが特徴です。
空港やスタジアム、地下街のような広く人が集まる環境では、設計自由度の高さが効いてきます。
ハイブリッドDAS
実務ではハイブリッド構成も一般的です。
幹線は光で伸ばし、末端は同軸で分配するなど、コストと性能のバランスを取りながら最適化します。
建物の癖や制約に合わせて形を変える、その調整こそが現場の腕の見せどころです。
DAS導入で得られるメリット
電波のムラを減らし、体感を安定させる
分散アンテナで空間をカバーすると、電界強度のムラを抑えやすくなります。
廊下ではつながるのに会議室では弱い、地下に降りた瞬間に圏外になる。
そんな屋内あるあるを、着実に減らしていけます。
体感が安定することで、施設そのものの評価も変わります。
容量を分散し、混雑に強くする
人が集まる場所ではトラフィックが一気に増えます。
DASはアンテナを分散させ、エリアを細かく区切ることで負荷を分散できます。
イベント時やピークタイムでも、使える通信を保ちやすくなります。
干渉を抑えやすい
必要以上に強い電波を一箇所から出さず、必要な場所へ必要な出力で届ける。
これにより屋内外の境界での干渉や不要輻射を抑えやすくなります。
設計が効いている現場ほど、セル端の不安定さは表に出ません。
設備の集約と運用効率
マルチキャリア対応DASでは、複数事業者の信号を同じインフラで分配できます。
キャリアごとに設備を増やさずに済むため、保守や更新も整理しやすくなります。
限られた設備スペースを有効に使える点は、現場では大きな価値です。
見た目を崩しにくい
屋内アンテナは小型で、天井裏や意匠に馴染む形で設置できます。
利用者が存在を意識しないまま、通信だけが良くなる。
その裏方感こそ、屋内設備としての理想形です。
屋内通信とBCPの観点での意義
屋内通信は利便性だけでなく、安全にも直結します。
大規模施設では、非常時の連絡や情報共有が生命線になります。
電源や伝送路の冗長化、非常用電源を含めた設計を行うことで、DASは平時だけでなく、いざという時の通信確率を底上げします。
普段は意識されない通信が、非常時にちゃんと残る。
そのための備えは静かですが、確かな価値を持ちます。
5G時代のDASと今後の位置づけ
5Gでは高い周波数帯の活用が進み、屋内での減衰や遮蔽はより顕著になります。
屋内に電波を届ける難しさは、むしろこれからが本番です。
だからこそ、屋内側で確実に電波を届けるDASの重要性は増していきます。
ローカル5Gやプライベートネットワークでも、この考え方はそのまま活きます。
DASは派手な技術ではありませんが、通信体験の底を支える存在です。
屋内でつながるという当たり前を守るために、役割はこれからも残り続けます。
まとめ
DASは屋内通信の課題を、分散配置という設計思想で解決するインフラです。
構成はシンプルでも、そこには屋内特有の難しさと積み重ねられたノウハウがあります。
ムラを減らし、容量を分散し、干渉を抑え、設備を集約し、美観も守る。
屋内で快適につながる体験は、こうした仕掛けの上に成り立っています。
目立たない設備ほど、止まったときに価値がわかります。
だからこそDASは、縁の下で確実に働き続ける存在です。
屋内通信を語る上で、避けて通れない基本技術と言えるでしょう。



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