ネットワークを支えるスイッチは、まるで静かに流れる血管のように、常にデータを正しい場所へ届けています。
その裏側で息づいているのが「MACアドレス学習」という仕組みです。
日々の業務では当たり前のように動いているスイッチも、その仕組みを深く理解していると、トラブル対応や設計の判断が驚くほど早くなります。
本記事では、MACアドレスとは何か、スイッチの動作原理、フレーム転送の流れを整理していきます。
MACアドレスとは何か、なぜ必要か
MACアドレスは、ネットワーク機器一つひとつが持つ名札のような存在です。
48ビット(6バイト)の16進数で表され、世界で一意になるよう設計されています。
これがあるおかげで、同じLAN内でも迷うことなく、データは目的の相手へたどり着けます。
IPアドレスが「地図上の住所」だとすれば、MACアドレスは「建物の中の部屋番号」。
配達員が正しい部屋に荷物を届けるように、スイッチはMACアドレスを手がかりにフレームを届けます。
スイッチの基本的な動作原理(L2SW)
レイヤー2のスイッチは、宛先MACアドレスをもとに転送先を決定します。
ハブのように全ポートへ無差別に送るのではなく、必要なポートだけにデータを流す。
その効率の高さこそ、現代のLANを支える理由です。
その心臓部が「MACアドレステーブル」。
ここに誰がどこにいるのかが刻まれ、スイッチはその情報を頼りに的確な転送を行います。
まるで熟練の配達員が、配達先の地図を頭の中に持っているかのようです。
MACアドレステーブルの仕組みと学習・更新・エージング
スイッチはフレームを受信するたびに、送信元MACと受信ポートの関係を記憶します。
これが学習です。初めて会う人の名前と顔を覚えるように、一度記憶すれば次から迷うことはありません。
ただし、時間が経つと記憶は薄れます。
通信が一定時間(多くは300秒)行われなければ、そのエントリはエージングによって消去されます。
これは過去の記憶を整理し、新しい出会いに備えるための自然な仕組みです。
また、同じMACが別の場所から現れたときは更新が行われます。
まるで引っ越し先の住所録を最新化するように、スイッチは常に正しい場所を記録し続けます。
フレーム受信時の処理フロー
フレームの受信と解析
フレームが届くと、送信元と宛先MACを読み取ります。
送信元MACの学習・更新
初めてのMACなら記録し、既存情報と異なるポートから来た場合は上書きします。
宛先MACでの転送判断
知っている宛先なら、そのポートだけに送る
知らない宛先なら、全ポートに送って探す(フラッディング)
この一連の動きが、目に見えない速さで繰り返されています。
MACアドレスの衝突や誤学習の原因と影響
ネットワークは生き物のように複雑で、時に想定外の事態が起こります。
重複MACアドレス
同じ名札を持つ人が二人現れたら、配達員は混乱します。スイッチでも同じです。
ポート間でMACエントリが行ったり来たりし、通信が不安定になります(MACフラッピング)。
誤学習
ループや配線ミスにより、本来の場所ではないポートにMACが記録されます。
その結果、データが届かない・ストームが発生するといった障害に直結します。
MACテーブルのオーバーフロー
容量を超えるMACが流れ込むと、未知宛先扱いとなりフラッディングが頻発します。
まとめ
MACアドレス学習は、スイッチが「誰に」「どこへ」データを届けるかを決めるための生命線です。
それは表に出ない静かな仕事ですが、ネットワークの安定稼働を支える縁の下の力持ちでもあります。
この仕組みを理解していると、障害時の原因特定が早まり、設計段階でのリスク回避も容易になります。
日々の運用の中でMAC学習の振る舞いを意識することが、強くてしなやかなネットワークを育てる第一歩です。
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