ネットワークエンジニアとして現場に立っていると、「リプレイス」と「マイグレーション」という言葉を耳にする機会は多いはずです。
どちらも「システムを新しくする」ことを指すように思えますが、実際には意味も進め方も異なります。
そして、その違いを理解せずに計画を進めてしまうと、現場での苦労やトラブルに直結します。
本記事では、通信インフラの文脈における「リプレイス」と「マイグレ」の違いを整理し、判断の軸や現場のリアルを交えて解説します。
リプレイスとは
リプレイス(Replace)はその名の通り「置き換え」です。
古くなったL2スイッチやルータを丸ごと新しい装置に入れ替える。これが典型的なリプレイスです。
- 対象:物理装置そのもの
- 特徴:設定移行は行うが、基本は新しい箱への総入替
- 目的:寿命対応、EoL/EoS対応、障害リスク低減
- メリット:シンプル、短期間で実施可能
- デメリット:導入コストが大きい
リプレイスは「古いものを捨てて新しいものへ」。潔さが求められる手法ともいえます。
マイグレーションとは
一方でマイグレーション(Migration)は「移行」。
装置自体はそのままに、OSのバージョンアップや設定体系の変更を行い、システムを次のステップへ進めます。
- 対象:ソフトウェア、構成、設定
- 特徴:既存資産を活かしつつ進化させる
- 目的:機能更新、セキュリティ強化、新規要件対応
- メリット:コストを抑えられる
- デメリット:移行手順が複雑で、検証やリハーサルに工数を要する
マイグレーションは「延命」とも言えますが、同時にシステムを次の姿へ進化させるプロセスでもあります。
なぜ混同されるのか
両者が混同されやすいのは、「最終的にユーザーから見れば新しくなった」という結果が同じだからです。
現場では「リプレイス案件」と呼んでいても、中身はマイグレーションがメインだった…というケースも少なくありません。
境界線はグレーであり、プロジェクトの設計思想や予算の制約によって呼び方が変わることも多いのです。
判断の軸
リプレイスかマイグレかを決める際には、以下のような観点が重要です。
- 寿命:装置のハード寿命やメーカーサポート期限は?
- 機能:必要な新機能はソフト更新で対応可能か?
- リスク:既存装置に致命的なハード故障リスクはないか?
- コスト:初期投資(CAPEX)と運用コスト(OPEX)のバランス
- 影響範囲:停止時間、影響するユーザー数
エンジニアの判断は、この軸をいかにバランスさせるかにかかっています。
実例で考える
両者は似て非なるプロセスであり、求められるスキルセットも異なります。
リプレイスの例
老朽化したL2スイッチを、同等ポート数の新型機に一括入替。
夜間切替でポートマッピングと設定移行のみ実施。
マイグレの例
既存のコアルータを残しつつ、OSバージョンアップとBGP設定再設計を実施。
事前検証と段階的リリースでリスクを抑える。
まとめ
リプレイスとマイグレーション言葉の響きは似ていても、その進め方や意味するところは大きく違います。
リプレイスは「一新」、マイグレは「進化」。
通信インフラの現場では、その選択がネットワークの未来を左右します。
見えない配線を預かるエンジニアとして、ただ「新しくする」のではなく、最適な道を選び取る眼が問われているのです。
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