インターネットの裏側では、世界中の人々の想いを乗せたデータが光の速さで駆け巡っています。
その流れを支えるのが光ファイバーによる通信です。
しかし私たちの生活やビジネスが生み出すデータ量は年々膨れ上がり、1本の光ファイバーだけではとても足りない時代になりました。
そこで生まれた技術が、波長分割多重 Wavelength Division Multiplexing(WDM)です。
WDMの基本的な仕組み

画像出典:富士通公式サイト
光ファイバーは透明なガラスの糸のようなもので、その中を光信号が進んでいきます。
通常なら1種類の光信号しか流せませんが、WDMでは波長の異なる光信号を同時に通すことができます。
合波器で複数の波長をまとめ、受信側では分波器で分けて取り出す。
シンプルですが、その効果は絶大です。
まるで一本の道路に何本もの車線をつくるように、通信経路を拡張できます。
WDMを支える構成要素

WDMの基本的な構成図(筆者作成)
- 合波器(MUX):複数の波長を1本にまとめる装置
- 分波器(DEMUX):まとめられた波長を再び分ける装置
- 光アンプ:長距離でも信号を弱めないための増幅器
これらが連携することで、数百キロメートルを超える大容量伝送が可能となります。
特にCバンドやLバンドと呼ばれる波長帯は損失が少なく、世界中の幹線ネットワークで使われています。
WDMのメリットとデメリット
最大のメリットは既存の光ファイバーを何倍も活かせることです。
新たにケーブルを敷設することなく、拡張が可能です。
通信事業者にとっては投資コスト削減、利用者にとっては高速で安定した通信環境の実現につながります。
一方でデメリットもあります。
波長を細かく分けるDWDMでは、発振波長の安定性が高い光源や高精度な波長選択フィルタが必要でコストが高くなりがちです。
また、光が混ざり合うことで生じる非線形効果の影響を抑えるために、設計や運用に高い専門性が求められます。
CWDMとDWDMの違い
WDMには大きく2種類があります。
- CWDM(Coarse WDM):波長間隔が広く、安価で導入しやすい。数十km程度の中距離伝送に向いており、企業ネットワークや都市内通信でよく使われます。
- DWDM(Dense WDM):波長間隔が狭く、多数のチャンネルを収容可能。キャリアの幹線や海底ケーブルなど、長距離かつ大容量が求められる領域で活躍します。
CWDMは運用のしやすさを優先した構成、DWDMは容量と到達距離を最優先に設計された構成と捉えると理解しやすいでしょう。
WDMの活用シーン
私たちの身近な通信は、すでにWDMによって支えられています。
- 通信キャリアの基幹網:都市間や国際回線を結ぶ大容量バックボーンでDWDMが使われています。
- データセンター間接続:クラウドサービスや動画配信を支えるデータセンター同士を高速で結びます。
- 企業ネットワーク:大企業やISPがビル間接続や専用線でWDMを活用し、安全かつ大容量の通信を実現しています。
- 基地局バックホール:5G時代の高速無線通信を支えるために、基地局間を光でつなぐ用途でも重要な役割を果たします。
かつては海底ケーブルの専売特許だったWDMは、いまや街中のオフィスや家庭を支える技術へと広がっています。
未来を切り拓くWDMの進化
研究開発の現場では、さらなる挑戦が続いています。
従来のCバンド・Lバンドに加え、OバンドやUバンドといった未利用の波長帯を組み合わせるマルチバンドWDM。
さらに、多心ファイバや空間多重(SDM)と組み合わせ、1秒間にペタビット級のデータを運ぶ構想も現実味を帯びています。
通信量はこれからも増え続けます。
リモートワーク、AI、IoT、そして未来の6G。
WDMは、次の世代の通信が成立する余地を裏側から支え続けています。
(まとめ)WDMが引き出す光ファイバーの伝送能力
WDMは、1本の光ファイバー上で異なる波長の光を同時に伝送し、物理的なファイバーを増やさずに伝送能力を拡張する技術です。
CWDMとDWDMという二つの形態があり、距離やコスト、用途に応じて選ばれています。
すでに世界中の通信インフラで欠かせない存在となっており、今後も進化し続けることで私たちの生活を支えていくでしょう。
もしあなたが動画を快適に見られたり、世界中の誰かと瞬時に繋がれたりするなら、その裏にはWDMが静かに働いている。
そんな想いを抱いて、この見えない光の技術に少し心を寄せてみてください。



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